顔写真のリアリティ
僕が自分で自分の過去を考えた時に興味深いのは、何故、絵を描かずに写真を撮ることを選択したかという理由です。十代の頃は尊敬する先生について絵を描いていたので、そのまま何事もなければ、画家を志していたと思う。それが偶然にも写真に出会い、写真を撮ってみようかと思うようになった。だから、僕の写真に対する興味は、写真と絵画、それぞれ表現する世界の違いを認識することから出発したように思います。
絵よりも写真のほうが圧倒的に適しているのは、やはり「リアリティ」を表現することです。ただし、この場合の「リアリティ」は、見えたまま、実物そっくりの「リアル」です。1839年に写真が発明された経緯や、当時の絵画と写真の関係を調べてみれば、実物そっくりに描くために、写真ほど有効なものはなかったことがわかります。カメラオブスキュラを使って現れた映像を定着したいという欲求から写真術は発明されたと理解して間違いありません。ところが、この写真表現が得意とする「リアリティ」は、少々問題ありなのです。見えたまま、実物そっくりの「リアル」は、言い方を変えると、自然的写実です。知人を描いた絵を見て、「本人に似てるね、そっくりだね」と思う感想です。
しかし、「リアリティ」というのはもっと複雑な感情で、見た目と異なっていても、より深くその人を感じる場合があります。あれ、錯覚かな、と勘違いするくらい強く「リアリティ」を体感した経験は誰にもあると思います。
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