2024/09/28

見えない時間の余白

長沢蘆雪の猿

現在資生堂ギャラリーで開催されている「天空の宙 静寂を叩く」展に多くの方がいらしてくださいます。感謝の気持ちでいっぱいです。

最近、長沢蘆雪の人気が鰻上りです。研究者によっては応挙よりも評価が高いくらい。
私も大好きです。
とにかく作風を一言で括れない多面的な世界を表現したことは、応挙の精神を受け継いだと言えましょう。蘆雪の数ある作品の中でも、大乗寺に描かれた猿の障壁画は見飽きることがありません。

蘆雪の若い頃は応挙の技術を習得するために費やされたと思われる。応挙そっくりの絵も残されているのだが、しかしよく見ると応挙の絵よりも濃いのだ。何かが濃く感じられる。確かな技術にプラスアルファが加わっている。弟子の内でも破格の人物だったことは間違いない。
押さえきれない才能が枠からはみ出てしまうような、規格外の、見ようによってはヤンチャな感性が蘆雪らしいところだと思います。

『応挙の日記』を読むと、「天明の大火」で焼失した御所の修復を応挙と共に手掛けたことが分かっています。蘆雪の技術の高さを応挙も認めていたからでしょう。

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2024/09/23

応挙寺の生きものたち

客殿十三室に描かれている生きもの

初めて「大乗寺」を訪れた時に感じたことがありました。

「大乗寺」は俗に「応挙寺」と呼ばれるように、何と言っても円山応挙が描いた障壁画で有名です。ところが「大乗寺」客殿十三室を巡って体感したのは、応挙とその一門の弟子十三人の共同制作で作られた空間だということでした。しかも、師匠と弟子の言葉から江戸時代職人の修行の厳しい上下関係を想像しがちだが、大乗寺客殿からは少し異なった雰囲気を感じ取りました。師匠と弟子でありながら、それぞれの作家としての個性を尊重する関係、すなわち理想的な西洋のサロンのような空気を感じたのです。客殿障壁画のどの部分を見ても、担当した絵師の生き生きした喜びを感じるのです。

客殿十三室に描かれているのは、人間よりも圧倒的に「生き物」の方が多い。応挙自らが描いた孔雀を初めとして、猿、鴛鴦、鴨、蝶、蛾、山雀、燕、牛、亀、犬、鯉、鮎、馬、鶴など、鳳凰まで数えると、18種類207個体描かれている。この生き生きと描かれた生き物をクローズアップすることで、今回の展示のテーマの一つである共同制作の喜びを伝えたいと思った。

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2024/09/18

円山応挙の日記

空想の宙 静寂を叩く

現在銀座資生堂ギャラリーで開催している「空想の宙/静寂を叩く」展に、多くの方が来場されています。感謝の気持ちでいっぱいです。

令和3年ですから、今から3年前にある古美術市で円山応挙の日記が発見されました。新聞紙上でも記事になりましたから、ご存知の方も多くいらっしゃると思います。
日記に記述された日付は、天明8年(1788)から寛政2年(1790)までの約3年間です。この天明8年は応挙にとってのみならず、日本美術史にとっても重要な年と言えると思います。
年の初め、俗に言われる「天明の大火」があり、京都市街が燃えてしまったのです。応挙の自宅も失い、この時画室にあったであろう大乗寺のために描いた「松に孔雀図」も燃えてしまいました。

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