十文字美信

移民として海外へ渡航した人たちが抱いた祖国への感情を一括りに語れない。その人の体験から得た想いは、個人個人知れば知るほど複雑です。そして故郷や祖国に対する感情は男と女でもまた違いがあるように思いました。屈託なく笑い、さらりと身の上を語るのは圧倒的に女性でした。

写真集『蘭の舟』より。
ハワイオアフ島カネオヘには平等院があり、私が撮影した1977〜8年には孔雀がいた。翼を広げて飛翔する姿は夢のように美しかった。

かつて、ハワイホノルルには旧ダウンタウンがありました。
私が移民一世たちを撮影した1970年代にはすでにもう廃れていく方向でした。それでも日系人相手の店も数件は残っていて、撮影の合間を見つけては通う贔屓の店もありました。中央に小さなフロアがあり、そこでチークダンスを踊る洒落た一世もいたのです。毎夜フィリピンのバンド演奏が入り、私も時々ママに頼まれてはディック・ミネや淡谷のり子のブルースを歌ったりしていました。