高倉健さんの顔

高倉健さんの顔

1986年ネスカフェゴールドブレンドの撮影を始まりとして、28年間俳優高倉健さんを撮影しました。
私が撮影したのは全てTVCMとコマーシャル写真の仕事でした。
その間撮影した回数、カット数はどのくらいの量になるか現在ではもう正確にわかりません。

私は劇映画のキャメラを担当したことがありませんから、完成した映画を観ての比較感想ですが、映画とCMでは高倉さんの魅力は異なっているように思います。
元々高倉さんは映画の役を演じていても、どこかで役を逸脱した素の影が見えてきます。世間では無口や不器用と表現したりしていますが、そうではなくて、役になりきってしまうのを拒否する意思があったように思います。演じるだけでは物足りないと思っていたのではないでしょうか。
撮影の仕方によっては、CMの現場はその人の「人となり」が現れてしまいますから、高倉さんもそのあたりを楽しんでいたように思います。

顔を撮る、というのは、写真家にとっては最も重要な行為です。被写体の人間性全てが顔に集約されてしまうからです。

高倉さんの顔を撮る日が決まると、撮影本番までの間、何度も何度も当日のシミュレーションを繰り返します。私が考えていることは、最初に話しかける言葉です。高倉さんがカメラの前に立った時、何を話すか、私の声の大きさ、声の調子によって、会話を超えた無言の二人のやりとりが始まります。
高倉さんは撮影の流れを私に任せて、自分はその瞬間の関係を受け止めて楽しんでいるようでもありました。時々、被写体である立場を逸脱してはまた戻ってきます。
ある時、私は逸脱した瞬間の顔を撮影してみようと思いました。高倉さんらしくない一瞬になるかもしれません。でも、高倉さんらしいの「らしい」ってなんだろう、と疑問に思っていたからです。本当の「らしさ」というのがあるとしたら、それは一つではなく、見る人の数だけあっていいのです。
理想的なその人らしさとは、撮られた写真を見るたびに変化していくものではないでしょうか。たった一つ変わらないものがあるとしたら、撮られた写真から感じ取ることが出来る「可能性」なのです。

この写真は数多く撮影した中で私が一等好きな高倉健さんの顔です。
11月10日、高倉さんの命日に合わせて、ビクターからLP盤レコードが発売されることになり、そのジャケットにこの写真が決まりました。

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