多摩美術大学・十文字美信最終講義(2)

「豆腐、卵、角砂糖を使って、パッション(情熱)を写真で表現しなさい」

今年の僕の授業を履修した3年生に提出した最初の課題です。
副題として、(光の効果を駆使すること)です。

「情熱」の解釈に対する質問は一切受け付けません。
自分が考える、あるいは経験した「情熱」で構わない。

提案した3種のモチーフにどう関わっていくか、個人差があって大変興味深い。
整然と並べる者、グチャグチャに混ぜ合わせ

る者、卵を割る者、投げつける者、卵焼きにする者もいる。具体的な生活周辺のありふれたモノを使って、感情を表現するのは難しいがやってみると面白い。
たった3ヶ月のライティング経験とは思えないほど、見事な作品に仕上げる者もいる。
この場で見せられないのが惜しいくらいの出来の写真もあります。
これから1年間かけて身につけて欲しいものは、撮影する以前にまずイメージすることの大切さです。
光と影、奥行き、色彩を心の中で具体的に描くことが出来れば、現実にやってみることとのギャップも生きてきます。
自分で光を操る面白さを体験してもらいたいのです。


僕はいつも不思議に思うことがあります。
それは画家が描くデッサンです。
例としては、「石膏像」でもいいし、入試問題によく出る「手」でもいいのですが、このデッサンをする時の光源はどのような種類の光源を想定して描くのでしょう?
ダイレクトの光ですか?それともディフューズ?バウンスですか?
光源の種類によってニュアンスは全く変わります。

デッサンというと、形を正確に見極め、立体感や素材感を忠実に描き分けるように考えるでしょう。しかし実際には光源の種類によって見え方は全く違うのです。
目の前のテーブルの上に石膏像があったと想定して、その石膏像に当たっている主光源の種類を想定しなければ、正確で趣のあるデッサンは描けないはずです。
いつもデッサン教室に設置してある蛍光灯の光ですか?
窓から射し込んできた太陽光でしょうか?
自然光だとしても、「光」は複雑に屈折して石膏像を照明してるはずです。

写真を撮ることで、誰もが光の存在に興味を持つでしょうが、思いどうりの光を自分で作り出すには、光に対する基本的な知識と理解しやすい体験が必要です。
初めて本格的な写真撮影に取り組むには、「光」と「影」に興味を持つことが何と言っても重要なのです。

「光」を写真的に意識する場合、光量(強さ弱さ)を問題にしがちです。
写真といえばモノクロームの時代が長かった影響もありますね。また、光量を正確に計らなければ適正露出にならなかったので、きれいな写真を撮るには光の強さ弱さを気にする必要があったのです。現在はカメラの機能が発達していますから、適正露出はカメラに任せて、「光は色だ!」と理解してください。

あらゆる「光」には色がついている。

「光」を意識するためには、色彩を見分ける感覚が大切です。

 

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