茶毒蛾(5)
早朝、タンザニアを焙煎する。
11:00からギャラリースペースで撮影が始まる。
前日の暗室プリント作業の影響で、建物中が薬品臭いため、ドアや窓を開ける。
特に、調色用の薬品は都会の下水臭に近い独特な匂いがする。
女優さんの撮影なので、このまま臭いが残ったら困る。
さて、茶毒蛾の痒みは少しずつ変化してる。
刺された直後に発症した個所は、痒みが薄れてきた。というより慣れてきた、と言う方が正確かも。ちょっとした驚きは、刺されてからすでに4日も過ぎているのに、今だに新しい部位にブツブツが広がっていく。右のお尻の内側と左脇腹の後側に小さなブツブツが現れている。触ると熱があり、猛烈に痒い。触れただけで、あらゆる部位が呼応して、一斉に痒みの合唱が始まる。
今回の茶毒蛾さんのお陰で気付いたことがあります。
「我慢に直接向き合わない努力が必要だ」ということです。
どういうことかと言いますと、決めたことを実行するための精神的回路を、努力で新しく作っておかなければ続かない、のです。
絶対に掻かないぞ!と決心しても、その直後は実行できるのですが、時間が経つと無意識に掻いてしまいます。そして、一度搔いたらもうダメです。決心なんてあっという間に吹き飛んでしまう。
ですから、本当に実行するためには、どんな状況にあろうと絶対に誘惑されない新しい人格を作り上げなければいけない。
無意識に掻いてしまうから、途方に暮れるのです。
無意識に掻いてしまう、を意識的に掻かないようにするための方法は、あるのだろうか?
この強烈な痒さを掻かないでやり過ごすためには、現在の僕程度の意思の強さでは無理ですね。
無意識を克服する何らかの鍛錬方法があるに違いない。
多分それは同じ行為の繰り返しにより身に付けていくものだろう。
武術や踊りの「型」に近いものではないだろうか。
あるいは禅の「面壁」(めんぺき)でしょうか。
今の僕には、茶毒蛾の痒さを克服する「型」は持っていない。
無意識を凌駕する「型」を身につけるには、まずその「道」の精神的回路の形成ですね。
痒さの誘惑に打ち勝つ「型」「方法」を身につけてる方がいらっしゃったら、ぜひ伝授していただきたい。
「茶毒道」とでも言うべき新しい領域に連れて行ってもらいたい。
「侘び茶」よりも理解しやすいかもしれません。
そうこうしてるうちに、また新鮮な痒みが僕を襲ってきます。
痒さを我慢しながらの撮影は、また新しい経験です。
楽しみです、と言えたらいいのですが•••。