十文字美信

想像では、まっすぐ飛んだカメラは放物線の果てに力を失い、水面に向かって落下するはずだったのに、フイルムに写っていたのは立ち位置からは見えない新たな岩石と草だった。…

現場で竿を振る前に、自宅近くの高台で何度も練習した。目的の位置方向にカメラが飛ぶまで、またシャッタースピードをどれ位の速度に設定したらいいのか、エアーレリーズが機能する距離の限界は、万が一自分が足を滑ら…

落下する人の眼に何が見えるのか、それはいったいどう見えてるのか、確認したい気持ちが強くなり、そのうち、落下して行く自分の夢と妄想にとらわれ、どうしてもやらずにはいられなくなった。…

松の樹木の傍まで来た。 モータードライブカメラ、エアーレリーズ付きの頑丈な竿を抱えさらに前へ進み、身体を樹木に縛り、ソロソロと太い枝の上に乗り、少しでも先の方へ向かう。…

1973年、夏の終わり頃、思い詰めて熱海に向かった。 太いテグスの先にモータードライブカメラを結んだ頑丈な釣竿を抱え、絶壁を恐る恐る下りて、この写真画面左下に見える太い松の樹の幹に身体を縛り、水平線目掛けて思い切…