雑誌『シアターガイド』に毎月連載してる「劇顔」、2017年掲載の写真をギャラリーで展示する。
役者の顔を撮るっていうのは、初めて訪れた街で道に迷った時の感覚に似ていると思う。どの方向へ行ったらいいのか、途方にくれて立ち止まる。行き先を決めるためには、きっかけを掴む手がかりが欲しい。例えそれが根拠のない直感であったとしても。
この撮影に関して言えば、最初の手がかりは役者の素顔は見たくない、と思ったこと。そうかといって、演じてる顔をそのまま写真で撮ってもちっとも面白くない。
ならどうする?
演じてる顔と素に戻る顔の狭間はないのだろうか?
そう思いついて、劇の幕が上がる直前か、あるいは幕が降りた直後の瞬間を思いついた。もちろん舞台に対する直前直後の心のありようは役者によって違うだろうが、異なる在り方に、その都度私が反応出来ればなんとかなる。そう思って始めた撮影だった。
顔を撮るって、写真家にとって永遠の課題だね。なんといっても被写体が魅力的に見えなければ話にならない。撮る甲斐がないじゃないか。実物よりも魅力的じゃなければね。でも、その人の魅力って一口に言うけど、いったいどんな瞬間がその人の魅力なの?その人らしさが強調された瞬間?他人が思っているその人らしさなんて、大抵は本物じゃないよ。それに、被写体になる役者と私は撮影の現場で顔を合わすのが初めて、がほとんどの場合だよ。
相手は役者だから、自分はこの顔、この表情がカッコイイと思い込んでる人も中にはいる。自分がいいと思い込んでる表情ほどつまらないものはない。生気が消えてしまうからだよ。反応を期待してる表情が写った顔ほどつまらない写真はないよ。
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