16世紀の画家ハンス・ホルバイン
7/20、ベルリンポツダム広場にある「絵画館」へ行きました。
僕が宿泊してるホテル(フリードリッヒ シュトラーゼ)から、近郊電車に乗って南へ2駅です。
ここは13世紀~18世紀のヨーロッパ絵画の傑作がズラリと並んでる。
ラファエロ、ボッチチェリ、ブリューゲル、フェルメール、カラヴァッチオ、レンブラントなど、中世の名画の宝庫で、じっくり観賞してたら、1日ではとても時間が足りない。
今回、絵画館へ行ったのは、理由がありました。
16世紀に活躍した肖像画家「ハンス・ホルバイン」の作品を見て、日頃疑問に思ってることを実際に確かめたかったのです。
ヨーロッパの絵画を俯瞰してみると、14世紀後半頃から絵画の雰囲気がガラリと変わります。
一口に言うと、それまでに比べると人物の描き方が飛躍的に現実的になります。つまり、本物そっくりに描くようになります。モデルになった人物の個性的な表情、身に付けている衣装の皺や襞の細部まで、まるでそこに実物があるように本物そっくりに描いています。
何故これほど上手に描けるのでしょう。
昔の画家は腕がいいから?目がいいから?
現代の画家だって描く技術は劣らないと思いますが、「本物そっくり」を基準にしたら、とても昔の画家に敵いません。特に写真が発明される直前の1700年代の静物画など、あれはもう写真ですね。レンズを通してしか見ることが出来ない世界だと思います。
レンズを通して、と書きましたが、本当にレンズを使って描いていたのではないか、と思います。
僕は以前『十文字美信の仕事と周辺』という本を上梓しましたが、その中にカラヴァッチオの絵画について、以前から思っていた疑問点を書きました。カラヴァッチオはレンズを使って絵を描いていたのではないか、と思ったのです。かなり大胆な仮説を提示しましたが、誰からも何も言われませんでした。それで、大学の僕の授業の中でこの仮説を取り上げて講義をしてきました。
15世紀以降19世紀に写真が発明されるまでの間、ヨーロッパの画家の多くは、なんらかの方法で光学機器(レンズ)を利用して絵を描いた、と思われます。
代表的な一人に「ハンス・ホルバイン」がいます。
今までは画集を見て疑問を感じていたので、この機会に、実物で確かめようと思ったのです。
ペトラス・クリストス、イアン・ヴァン・アイク、フランス・ハルスなどと並んでハンス・ホルバインの絵も展示されてありました。
iPhone に付いてるカメラを使ってガラス越しに、手持ちで撮影してるので見難い写真ですが、冒頭に添付しましたので、これからの話の参考にしてください。
お断りしておきますが、これは僕の個人的な感想で、定説ではありません。
まず、ホルバインが描いたこの肖像画の光源は何ですか。何だと思いますか?
よく見ると瞳の中に、黒い瞳の右上に光が点になって映っています。この時代はもちろん電気などありませんから、ランプか蝋燭の炎、あるいは太陽です。人物の後ろの壁に落ちている影から考えると光源はどうも太陽のようです。何だかこの影の描き方も不自然に見えますね。頭の部分の影を描いていませんね。人物と壁との距離から考えると、頭の影の位置は肩より上にないと不自然です。テーブルがあり壁には棚がありますから、人物が座っている場所は室内だと思われます。光源が太陽光だとしたら、屋根が無い部屋ですか?あるいは大きな窓がある?
人物をよーく見てください。どこかバランスが気になりませんか?
僕の目には腕の位置が低すぎるように思われてなりません。胴体と頭の位置関係が不自然に見えて仕方ない。腕の衣装の精密で正確な描き方から想像すると、頭、腕、胴体がアンバランスです。
壁に掛かっている様々な道具や資料の紙、棚に置いてある本、テーブルの上のガラス製花器、金属の器やハサミ、ペンなど、実に本物そっくりです。
「部分部分を別のタイミングで描いて後で合成した」のだとしたら、この絵はとてもしっくりくるのです。特に頭(顔)を描いたのは、腕や胴体と別の時、もしかしたら別の日だった。
もっと大胆なことを言うと、顔と腕を含む胴体とは、別々の人物を描いた、とも考えられます。衣装をあれだけ繊細、細密に描くにはそれ相応の時間がかかります。いわゆるアタリだけとっておいて、別のモデルを使ってもいいわけです。
背後の壁に落ちている影に頭の形が含まれていないのは何故ですか?省略したからでしょうか?細部のかたちや質感にあれほどこだわっているホルバインさんが、大事な影を省略するとも思えないのですが。
テーブルの上、画面右端にある金属製の蓋物に注目してください。
蓋が半分ほど開いて中の銅貨が見えています。
これってデッサンが狂っていませんか?
テーブルの平面と蓋物容器の平面性が合っていません。
そういえば、ガラス製花器の右横に置いてある銅製のような器も平面性が合いません。
よく見るとテーブル全体が右に捻れているようです。
僕が指摘したことが確かだとしたら、何故そう描いたのでしょう。
あるいは、何故そう描かれてしまったのでしょう。
決して名画を落とし込めようとしてるのではありません。
普段、レンズを通して人物を見続けている僕のような写真家でなければ、このような特徴に気付かないかもしれませんね。
僕の結論を言いますと、「ハンス・ホルバイン」さんは、レンズを装着した「カメラオブスキュラ」か「カメラルシーダ」を利用して、この肖像画を描いた、と考えています。
光学機器の特徴がそのまま画面に現れている。
もしも仮にそうであったとしても、この絵の魅力に何ら影響はありません。
この時代の画家たちはどんな技術を駆使して絵を描いていたのでしょう。
写真家として興味深いのです。