おいしいコーヒー(18)、焙煎は勇気だ。

以下の文章は、僕の個人的な体験から導きだした結論で、コーヒー焙煎に対する現在の感想です。

先日も、ある雑誌社から連絡があり、コーヒーの取材を受けた。

最近は、写真よりもコーヒー関連の取材が多い。僕にとって喜ばしいことかどうかわかりませんが。

取材を受けてて感じるのは、コーヒーの味にも流行があるのではないか、ということ。編集者の話を聞いていると、最近のコーヒーの味傾向は、一時よりも酸味がもてはやされているらしい。独特のコーヒーの酸味が味の決めてだ、などと言っている。実際に焙煎の経験がある人ならわかりますが、酸味も甘味も苦味も、焙煎のやり方一つで変わってきます。どの豆にも焙煎の過程で、焙煎の進行にしたがって、すべての味覚が現れては消えていきます。ブラジルやモカは酸味が強くて、ケニヤやタンザニアは甘味がある、などと言うのは間違っていて、どの段階で焙煎を止めるか、です。すべての豆に甘味も酸味も苦味もあり、焙煎方法で味を決めているのです。

コーヒーにとって最もやっていけないことは、焦がすことです。絶対と言ってもいい。豆を燃やしてしまっては、すべてがパーになってしまいます。ところが、コーヒーの甘味というのは、実は、ある程度焙煎を進行させないと、あらわれてきません。コーヒーの酸味が重要でおいしい、というのは、僕は疑問です。やはり、コーヒーの価値は、コーヒー豆が潜在的にもっている甘味をいかにひきだすか、にあると思います。

甘味は苦味のほんのすぐそばにあるのです。ですから、ちょっとでも油断すると、焦げてしまいます。僕の経験では、豆の種類によって、焦げやすい豆と、そうでもない豆があります。ブラジルやモカ、マンデリンなどは、どちらかというと焦げやすい。10秒の違いで使い物にならなくなります。たった10秒ですよ。

それに比べてケニヤ、タンザニアなどは、比較的焦げにくい。その理由は、豆の形状が大きく影響しているのではないかと想像しています。ブラジルの豆は通常、平べったくて豆の周囲の厚みがありません。ですから、ちょっとした火加減を間違えると、あっという間に焦げてしまいます。焙煎してる本人が気付かないうちに焦げてしまうこともあります。ケニアなどは丸くて厚みがあるために、火加減や時間に余裕があります。形状の問題だけでなく、成分の問題もあるかもしれませんが、それは僕の専門外なのでわかりません。確実に言えることは、ケニヤを焙煎する火力と時間を、そのまま、まったく同じようにブラジルに適用すると、完璧に焦げます。ほんの少しでも焦げたら飲めません。

簡単にいうと、ブラジルのスイートポイントはケニアよりも厳密です。

僕の想像ですが、ブラジルやモカは酸味が強い、というのは、焦がすのを恐れて、焙煎を早めに切り上げている、ということはないのだろうか。ブラジルもモカも、甘味のところまで焙煎を進めなければ、あの独特のアロマのような、花のような香りは出てきません。僕がこれだけコーヒーの魅力にとらわれたのは、焙煎が本当にうまくいったときにだけ立ち現れる香水のような香りを知ったからです。

焙煎を酸味の場所で止めては、その香しい体験はできません。勇気をもって、さらに押し進めるのです。

焦がさずに深く煎ることだけが、コーヒーから花の香りを聞くことができるのです。

焦がさずに深く煎ることは、とても難しい。だからこそ面白いのです。これからコーヒーを体験してみようと思っている若い人に特に言いたい。コーヒーは酸味だ、などという言葉に惑わされずに、勇気を持って深いところへ行きましょう。安全な方法ばかりを選択しないで未知の場面を体験しましょう。

冒頭に貼付けた写真は、僕が現在使っている焙煎機です。体験からいろいろテストして改良し、素材から見直しました。右が最新型で、僕にとっての5号改造型です。
 

 

5 Responses to “おいしいコーヒー(18)、焙煎は勇気だ。”

  • tsukasa |

    美信さん、こんにちは。
    鎌倉に住んでいながら先日はじめてうかがいました。

    確かに巷では、酸味がもてはやされているようですね。
    焙煎まではしませんが、私も家で豆を挽いてプレスでですがおいしい?コーヒーを飲んでいるつもりです。
    だいぶ昔、おいしいコーヒーの真実という映画を見て、現地の人が確か、煎った豆をカップに入れて太い木の棒かなんかで簡単につぶしてお湯を注いで飲んでたような記憶が残っています。
    かなり衝撃で、美味い豆ならこれでも良いのか?
    プレスがその感覚に一番近く、その方法にしています。
    豆の量も少なくてすむし・・・(笑)。

    個人的には、苦みの後に来る甘みが大好きで、浅煎りの酸味の強いコーヒーが好きではありません。でも、好みもありますから何とも言えませんが・・・。

    ここまでコーヒーが生活に浸透してきて、浅煎りだの、中深煎りだの、深煎りだのさまざまで、個人的には、楽しいなぁ~と思うこの頃です。

    失礼をいたしました。

    • Bishin |

      tsukasaさん連絡ありがとうございます。
      エチオピアでは今でもおっしゃるようなコーヒーを飲んでいるようです。知人がそのような飲み方をしている写真を送ってくれました。僕は未体験ですが、一度ぜひ飲んでみたいですね。
      コーヒーは嗜好品ですから個人個人で好みがあり、何を基準にするかが難しいです、結局頼りになるのは自分の感覚ですね。そう信じて毎日焙煎しています。また機会がありましたらぜひ飲みにきてください。

  • nori |

    十文字さま、初めまして。「焦げ コーヒー 焙煎」で検索をかけたら、なんと写真を撮っていた学生の頃に雲の上の人と思っていた方のブログにたどりつきました。焙煎を始めて数年になりますが、今朝に飲んだコーヒーは焦げ臭くて閉口しました。焦げたコーヒーは初めてです。

    私も手回しの焙煎器(baisen-e)を使っていますが、1バッチ500グラム、だいたい18分くらいで1ハゼが始まります。ところがハンドピックをして半端になっていた250グラムを、少しだけ弱い火力で煎ってしまったのが敗因でした。11分で1ハゼが始まって、14分でシティローストにあげたのですが、芯焦げしていたようです。

    私は焙煎器に、アルミの「天ぷらガード」で作った覆いをかけています。この効果はかなりのもので、時間の短縮にもなるし、カリッと大きくふくらみます。baisen-eというのは金沢で作っていて、シリンダーの内側にセラミックが溶接?されていて、遠赤外線が出るのだそうです。

    おっしゃる通りで、コーヒー業界では「フルーティーな酸味」がもてはやされているようですね。カップ・オブ・エクセレンスでいかに評価されるかに、とくに中南米の生産者が敏感になっているような感じです。

  • 中川京子 |

    十文字さん 何度かメッセージしてます。十文字さんの写真と文字が見たくなってクリックすると、コーヒーのことを書かれてたので主人が焙煎人ということもあって(焙煎人の嫁職業病)つい力が入りました。そして、楽しく拝読させていただきました。焼き加減と、酸味と甘味の部分があまりにもに面白く、コメント書きました。

    最近の傾向の酸味もひと時の過剰な酸味からすると穏やかになったと思うのですが、私はやはり芯までしっかり火の通った甘いコーヒーが好きです。

    珈琲豆そのものの味わい、ローストの味、淹れる人の技術、香、飲む人の舌、飲む場面と6種の要素で私は判断するのですが、焦げること(失敗)を恐れて限界点ぎりぎり手前の甘味を知らないままで終わってしまうことは冒険という人生の醍醐味を半分知らないまま終わる気がするのです。

    が、人間一旦トラウマにハマってしまうとそこから抜け出すのが苦手なように、コーヒーのファーストタッチが1度、苦手と感じるともう一度トライする壁が高いのがコーヒーな気がします。

    私はブラジルが苦手(独特な香と味)ですが、十文字さんの文章を読むと、毛嫌いしたらダメだな思いました。私はコーヒーのプロでは無いにですが、常にコーヒーを飲むことには厳しくあれと教えられてるので、常に真剣勝負で飲むのですが、本当に多くの方々に未知の場面の向こう側にある世界を体感した上で、酸味も甘味も、コーヒーらしい苦味を味わってもらいたいと思います。コーヒーの旨味、焦げてることを知らないまま終わるのももったいない気がします。

    お店でいただいた、マンデリンの味は今も忘れられません。写真展の開催を切に希望しつつ、いつかまた、お店にお伺いできる日を楽しみにしています。

    冒頭の写真の焙煎機の傾き加減にシビレました。

    • Bishin Jumonji |

      中川さん
      コメントありがとうございます。

      私は元々(カフェをやろうと決めるまで)あまりコーヒーが好きでなかった、むしろ嫌いでした。それではイカン、お客様に申し訳ないと思い、なんとか好きになろうと焙煎された豆を数種買って試飲したのですがどれも好みに合いませんでした。はじめの口当たりがキツイのと俗に言う酸味を感じてしまい、一口でいうと、主張し過ぎるなんだか図々しい飲み物、という感じがしていたのです。
      ですから、自分で焙煎するときの基準は、口当たりが優しい、甘みを感じる、を第一目標にして始めたのです。
      仰るように趣向品ですから人さまざまでよろしい。自分に合う珈琲にめぐり逢うまで、これもまた旅の一つの形です。

      鎌倉Cafe beeは昨年の6月いっぱいで閉店しました。これからの残りの時間を一等好きな写真だけを撮り続けて終わりたい、と数年前から考えていたのです。
      ところが、焙煎はやめられないですね。自分と家族、それからどうしても私の珈琲でなければダメ、という方、約2名いらっしゃるので、そのために今でも7〜10日に1度ずつ焙煎を続けています。ですから、コロナが今より収まり、ギャラリーで写真展を開催する時、希望する方には珈琲を提供するつもりです。
      私も中川さんとお会いする日を楽しみにします。ご主人によろしくお伝えください。

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