おいしいコーヒー(16)
今年の春頃には、自分が理想とするコーヒーの味、香りに、かなり近づいてきました。
しかし、あと一歩のところがどうしても気に入りません。
特に「香り」です。
僕が思うのは、カップを近づけると何ともいえない花のような香りが漂い、口に含んだ時のまろやかな口あたりがコーヒーを楽しむ条件です。
ところが、まろやかにしようとすると抜けが悪くなり、抜けをよくするために火を調節すると、口あたりがきつくなる。
香りも豆の香りだけになってしまいます。
それまでにも、考えられるあらゆる火加減を試したのですが、満足できません。
今年の初め頃は、魚焼きの網をいろいろ買って来て、火の強さを調節したり、「直火」と「間接」、両方の焙煎器を使い回したり、ダンパーを自作して煙を利用したり、ダブル焙煎したり、まあ、今から思うと、無駄な試みもありました。
そうこうしてるうちに、焙煎器の素材が問題ではないかと思い出したのです。
何故なら、どんなに腕のいい料理人でも、ステンレスの薄い鍋でおいしい卵焼きを作ることは出来ないだろう、と気付いたからです。
焙煎器の熱が、豆にどう伝わっていくかが問題です。
火を使う場合、難しいのは、強火よりも弱火の加減です。
強火はコンロの能力いっぱいが限度ですが、弱火はさまざまです。
じんわりと弱火を利用しようとしたら、ステンレスでは難しいのではないかと思ったのです。
熱伝導の効率を考えると、なんといっても、素材は「鉄」がいい。
それで、使っている焙煎器に磁石を近づけてみたら、案の定、思ったより吸着力が弱い。
純粋な「鉄」であれば、磁石はもっとくっつきます。
僕が使ってる焙煎器の素材は、「ステンレス」と「鉄」の合金でした。
それで、焙煎器を「鉄」で作り直すことにしたのです。
「鉄」といってもいろいろあります。
高級鉄板焼き屋が使う鉄板は「純鉄」です。
「純鉄」で焙煎器を作ろうとしたのですが、焙煎器に使用する厚みを考えると、「純鉄」では熱で変形する可能性があるのです。
そのため「純鉄」を断念しました。
ただし、純粋な「鉄」に近い成分のものをさがしたのです。
もう一つやらなければならないことがあります。
工業用の「鉄」は、錆び止めのために、あらかじめ油を含有させてあります。ですから、事前に油抜きをしておく必要があったのです。
市販の焙煎器は素材の厚みが0、8mmでした。
僕は、新しく作るにあたって、内部のシリンダー部は「鉄」の厚みを1、3mmに変更しました。
理由は、熱の推移を考えると、豆が直接触れる部分は少しでも素材の「鉄」を厚くしたかったのです。
このあたりは、本当ならデータをとって決めたかったのですが、そうもいきません。
豆を撹拌するために付いてるシリンダー内部の羽の形態も、いろいろ試したかったのですが、現状の形を踏襲しました。
結果、形態に関しては発明者のアイデアをそのまま尊重することになりました。