若宗匠とコーヒー
8/7日、僕にとっては、特別な日になった。
茶道家元の若宗匠に、僕が焙煎したコーヒーをごちそうする機会がやってきたのです。
若宗匠の心遣いから生まれた、たいへん贅沢な経験でした。
どういうことかというと、この日、北鎌倉東慶寺でおこなわれる茶会に招かれていたのですが、僕の茶に対する未熟な経験では、きっと緊張してるに違いないから、事前に顔合わせをした方がお互いによろしかろう、という細やかな若宗匠の心配りで、当日、茶会の前に鎌倉の「CAFE bee」まで来てくださったのです。
理由はともあれ、茶の宗匠に自分が焙煎したコーヒーを振る舞うなんて、そうめったにあることではない。
久しぶりに気合いが入りました。
前日の8/6日は、北海道でロケハンがあったのですが、夕方、帰宅してから焙煎を始めました。
せっかくの機会ですから、自分が最高に気に入った心づくしのコーヒーを出したいじゃないですか。
家にいる時は、毎日焙煎してるので、もちろん、豆のストックは充分にあるのですが、これ以上ない、という至極のコーヒーを味わっていただきたい。茶の宗匠なら味に対しては鋭い感覚をお持ちなはず、茶もカフェイン、コーヒーもカフェイン、ここはひとつ、「うん、なかなかおいしいね」などと言わせたいと思うのは人情。
頑張って焙煎したのです。しかし、事はそう旨く運びません。何度やっても、理想の香りが出せないのです。
最近よく思う事は、バランスのいい、おいしいコーヒーではどうもつまらないのです。
普段よく言われる、「酸味と苦味のバランスがいい」だけでは面白くありません。
僕が考えていることは、言い方は変ですが、「豆から、いかに離れるか」です。
抽出したコーヒーを飲んで、豆を想像するようでは、まだまだイカンのです。
カップ1杯のコーヒーを飲んだだけで、今まで味わった事がない不思議な体験、にまで持っていきたいのです。
それには何と言っても「香り」です。
一般的に思っているコーヒーとは違う、上質で、官能的な香りを実現したいのです。
「豆から離れる」ためには、ある程度の深煎りが必要です。ただし、深く煎って出た香りは、飲み終わってからいつまでも喉に残ってはいけません。飲み終わりの引き際が大切です。僕の経験では、引き際が素早いコーヒーは、口当たりもやわらかいのです。きついコーヒーは、引きも時間がかかります。
言葉で説明しにくいのですが、僕には理想のコーヒーの香りがあって、それは、香水の香りに近いです。いわゆる豆の匂いではなく、「これがコーヒーか?」と思うほど上質な香りですが、飲み終わる頃には「確かにコーヒーだ」と納得し、最後は、「動物的で官能的な匂い」がカップに残っている。こんなコーヒーを実現させたいと思っています。
当日、若宗匠は2人のお弟子さんと、茶の先生1人を同伴して見えられました。
「マンデリン」がうまく焙煎できた時は、かなり理想に近いのですが、前日の3回の焙煎はことごとく外れました。それで急遽「ブラジル」に変えたところ、これも気に入りません。「ブラジル」は焙煎の許容範囲が広いので、安全パイだと思ったのが良くなかった。油断があったのかもしれません、とにかく気に入らないのです。結局、前夜は深夜まで7回も焙煎したのですが、すべて、納得できませんでした。
それで、若宗匠には、8/4日に焙煎した「パプアニューギニア」を抽出して飲んでいただきました。
「いい香りがします」
一口飲んだ後の感想でした。
ちょっと濃くいれすぎたかな、と思ったので、「濃いですか?」と訊ねたら「いえ、おいしいです」との答えでした。
いやあ、嬉しかったです。写真を誉められたことより嬉しかったですね。
4人の皆様にはすべて「パプアニューギニア」をお出ししました。
2時間ぐらい会話を楽しんだ後、「もう1杯おかわりしていいですか?」とのことでしたので、「ケニア」を飲んでいただきました。
若宗匠とはこの時初めてお会いしてゆっくり話したのですが、いいご縁が出来ました。若宗匠はじめ、皆様に感謝しています。