おいしいコーヒー(6)

文字通り、連日、早朝と深夜にコーヒーの焙煎をやり続けることによって、僕自身のコーヒーに対する好みがわかってきました。すべての焙煎方法を試せるわけではないので、以下はあくまでも、個人的な、しかも単なる好みの話です。

コーヒーの焙煎にこだわることで、何を気付いたのかというと、焙煎のやり方ひとつで、味や香りがガラリと変わることでした。そして、さまざまな味のコーヒーを試飲しているうちに、自分の好みがわかってきました。
コーヒーで何をやりたかったのかがわかってきたのです。

よく、苦いコーヒー、酸味が強いコーヒーといいますが、焙煎さえうまく出来たものなら、苦味も酸味もどちらもおいしいのです。「どちらかというと」という個人的嗜好の程度はあるでしょうが、よくよく味わってみるとどちらの傾向もイケます。
焙煎を繰り返しているうちに、カップ1杯のコーヒーで、どちらの味も体験できる焙煎方法はないのだろうか、と思うようになりました。焙煎の温度、時間、温度の変化、変化のタイミング、そして抽出の仕方、などなど、コーヒーがそれなりに完成するまでに、まざまな段階を経なければなりません。しかし、それらのひとつひとつを工夫することで、ある程度はコントロール出来ると思います。抽出のことでいえば、豆を挽く粉の大きさによって、味はずいぶん変わります。また、豆の旨味成分が湯に移り変わることがおいしいコーヒーなのですが、その移り変わる時間によっても、感じられる味は変わりました。
焙煎から抽出までをコントロールしながら、「カップ1杯のコーヒーで、酸味、苦味、甘味、すべてが体験できる」ようにならないか、と考えたのです。いわゆる「コク」と言ってもいいかもしれません。よく「味にコクがある」と言いますが、その「コク」の中味は、酸味、苦味、甘味、すべてが含まれているのではないかと気付いたのです。単なる「苦い」や、「酸味がある」ではなく、コーヒーを飲んで、もっと複雑な味覚を味わいたいと思ったのです。
カップ1杯のコーヒーは、飲み終わるまでに時間経過があるので、だんだん冷えていきます。その冷えていく過程で味が変わっていきます。
おいしいコーヒーは冷えてもおいしいのです。
そして、僕が何よりも重視しているのは、飲み終わったあとの味の引き際です。

どんなおいしい味も、飲み終わったあとはスッと消えてなくなるように出来ないか、そして、飲み終わった後の何も残っていないカップに顔を近づけると、カップの内側に、甘い香りだけが沈んでいる。
飲み終わりに、甘い香りを聞き分けている時こそ、コーヒー飲みの最も贅沢な時間です。

こんなコーヒーを作り出せないか、と思いだしたのです。

繰り返しますが、あくまでも個人的な嗜好ですから、そういうつもりで聞いてください。
同じコーヒーであっても、「苦い」、と感じる人もいれば、「酸味が強い」、逆に、「甘い」、と感じる人もいます。絶対的な答えはない世界です。だからこそおもしろいと思いました。

現時点の話ですが、なんとか自分なりの合格点がつけられるまでになったとおもいます。
ああ、十文字はコーヒーでこんなことをしようとしたのか、と実感できるぐらいまでは到達したかなあ、と思います。
ギャラリーに来られた方をもてなしたい、から出発して、ずいぶん大袈裟なことを言うなあ、とも思いますが、どうせやるなら志を高く持ってコーヒー焙煎に集中してみました。
試飲していただいて、感想を聞きたいです。

 

 

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