「鈴木さん」
季節の到来を意識するのは、どんな時だろう。
人によってさまざまだと思うが、僕の場合は蛇がその一つです。
毎年今頃になると、つまり、梅雨の季節になると、我が家の庭に青大将が現れるのです。それもかなり大きなヤツです。長さは僕の身長ほどもあると思われるので、だいたい1m70cmくらいでしょうか。その蛇を初めて見かけたのは2年前ですが、昨年も同じ時期に同じ場所で見つけました。それからは6月になると、ついつい蛇を見つけた場所へ行って眼を凝らすようになりました。
今朝も玄関のガラス戸を引いて、何気なく隣家との境にあるブロック塀の方に眼をやると、あいつが居たのです。やはり、昨年見つけた場所と同じところでした。
僕は蛇を見ているのが好きです。音もなく滑るように進む姿は、超能力者のようで、わくわくします。
これだけ立派な大きさの蛇が、同じ場所に複数体生息していると思えないので、僕が3年続けて出会った青大将は同じ個体の確率が高いと思っています。
我が家の斜め前の家に、鈴木さんという方が住んでおられ、鈴木さんの家の庭には沼があると聞いたことがあります。もし、その噂が本当なら、この蛇は鈴木家の庭で越冬している可能性があります。昨年は僕の家の庭を横断して、道を横切り、さらに鈴木さんの家の塀を乗り越えて行きましたから、沼の近くに巣があるのかもしれません。いずれにしろ、僕は勝手にこの青大将を「鈴木さん」と呼んでいます。
「鈴木さん」は長い胴体の割には、意外に思うほど顔が小さいのです。ただし、何ともいえぬ色味を帯びています。青灰色とでもいうのか、何色と言い切れぬ深くて透明感のある青さです。眼は黒赤色ですが、空を映し込んでまるで光を発しているようです。流線型の先端のような口から、ひっきりなしに黒い舌先を出しては引っ込めています。
ブロック塀から、どくだみがまとまって群生している地面まで下りるのに、1分52秒かかりました。
「鈴木さん」は決して慌てないです。背中と言っていいのか、胴体の上部を触っても何の反応もありません。ビクッとして急いで走り去るなんてことは、まったくないのです。静かにゆっくりと地を這って進みます。そして、悠然とどくだみの中に吸い込まれていきました。
仕事の時間が迫ってる僕は、仕方なく「鈴木さん」が消えたどくだみの写真を撮ってサヨナラを言いました。
この写真に写ってるどくだみの葉の下には、太くて長い「鈴木さん」がいるのです。
ちなみに、最後に掲載した写真は昨年の「鈴木さん」です。