写真と珈琲のバラード(13)

連日、暗室に籠って次回刊行予定の写真集『常ならむ』に掲載する作品を焼いていますが、今朝は、ちょっと気分転換のために珈琲について書いてみます。

写真も面白いですが、珈琲の焙煎もなかなか面白い。何が面白いのかというと、不確定要素があまりに多く、毎回発見があり、小さな驚きの連続です。大きな驚きはたまに体験するので充分ですが、連日のように小さな興奮を味わうことが出来るのは幸せだと思います。何しろ手元に来た生豆がどのような環境を経験して来たのか、そのロットによって違うのですから、厳密に言うと基準がありません。条件の違う素材に立ち向かって、それぞれを一定のレベルに持って行くには、自分なりに工夫した約束事が必要です。

珈琲の焙煎は生豆を焼くことですが、この焼き方によって、香り、口当たり、味、喉越し、ヌケ、残り香などの要素は全く異なってきます。一つ一つの要素に自分の理想を決め、そのために何をどうすれば良いかを実践努力するわけです。写真もそうですが、何事も自分なりの発見が大事です。

私は焙煎過程を大きく二つに分けて考えています。①水分を飛ばす、②豆を焼く、です。豆の約20~25%は水分を含んでいます。なぜわかるかと言うと、焙煎前と焙煎後の重さを計るからです。豆が焼かれるためには、まず始めに水分を蒸発させなければなりません。豆の中にある大量の水分をどうするか、どう飛ばすか、が重要です。水分の飛ばし方で、全く違った結果になります。特に口当たりは、水分の飛ばし方にとても影響されるのです。実は今回は水分の飛ばし方の話ではなく、豆を焼いた後の話をします。

珈琲の焙煎は豆を焼くことですが、深く焙煎しなければ甘さまで到達しません。現在、巷で流行してる酸味が強い珈琲はわたしの好みではありません。深く焙煎するというのは、大きなリスクがあります。それは焦げやすいことです。豆を焦がしたらそれで全て終わりです。深く焙煎しても絶対に焦がさないことが甘くて美味しい珈琲の条件です。ところが、焙煎が進むにつれ、豆の色が濃く深くなってきますから、目で見ても、その豆が焦げているか分かりにくい。ではどうやって確かめているのかというと、豆を触るのです。

焙煎が終了すると、豆を冷却しなければなりません。余熱を利用するために自然冷却もありますが、わたしは焙煎が終わると空冷、水冷両方を使って直ちに冷やします。最後は10秒単位で時間を計り、止め終わりを決定しますから、余熱を必要としません。ある程度冷えてきたら、豆をかき混ぜて表面のチャフ(薄皮)残りをチェックします。この時、掌を濡らして豆を混ぜるのです。何故かと言いますと、ほんの少しでも焦げでいたらその痕跡が濡れた掌に付いてくるからです。

数年前にこの方法を発見しました。何かを成し遂げるのはこんな小さな発見の集積です。


 

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