「升たか作陶展」始まる
明日、10/6日から「GALLERY B」で陶芸家升たかさんの作品展が始まる。
僕は2年前から、コーヒーに強い興味を持ち始め、今やカフェを持つに至った。コーヒーの味がある程度確立された頃から、僕が作るコーヒーの味、香りに似合うカップを探し求め、升たかさんの作品に行き着いた。そのあたりの事情は、以前ブログで少し書きました。僕は升たかさんの作品とともに、その人間性にも魅かれ、ぜひ作品展をやって欲しいとお願いして今回実現したのです。
升さんの作品の特徴は、その繊細な絵です。
陶器に描く絵は、巧みでなければつまらないし、技術を越えた稚味を醸し出していなければ、これまた面白くない。そのあたりの妙味は、作家の人間性がそのままあらわれるので、だから器物に描く絵はむづかしい。
それに、火を使うので、計算と偶然との予測が作家の性格や思想にまで及ぶ。強靭な忍耐と楽天性を持ち合わせていなければ、絵付け作家に向いていない。このあたりの機微は、ささやかながらコーヒーの焙煎も火を使うので、なんとなくわかります。
2ヶ月前から作業場に籠り、籠り始めると、升さんは一歩も外に出ない日もある。ひたすら細い筆を動かして描く対象に打ち込む。朝鮮半島、中国の山水、人物と百馬、インドネシアの更紗、ペルシャの娘、オームや駱駝、孔雀、鹿、イズニックの帆船群、ヨーロッパの宗教画、エンゼルなどなど、彼の頭の中は日本を出発して、大陸を縦断し、ヨーロッパの宗教画にまで及ぶ。土をいじりながら、長大な旅を敢行してしまう。
今回は139点の作品を作られた。
2日前に升さんはギャラリーにあらわれ、全ての作品の荷をほどき、無事到着したことを確かめると、「あとは十文字さんにおまかせします」と言い、カフェに座りコーヒーを注文された。ひとしきりタンザニアを楽しんだあと、満面の笑みを浮かべながら、スタスタ帰られた。ちょっと散歩に寄ったんですという風情で、古武士のような後ろ姿で帰られた。
139点の作品を前にして、これをどのように展示するか、考えるのは実に面白い作業でした。まず、ギャラリーの中央に、大きさの違う四角い箱を並べ、鑑賞する高さを不揃いにしてリズムを生み出すようにしました。作品が小さいので、単調に見えることを避けたかった。照明は間接照明とスポットライトを併用し、空間の中での作品の存在感を意識した。遠くから見れば浮いているように、近くから見れば描かれた世界が克明に理解できるように、そして、手に取ってまじまじと鑑賞し、升さんが空想した旅の空間に追体験できるよう願って設定した。
作品の魅力を邪魔しないように、出来れば少しでも作品が持つ個性を引き立てたい。
会期中はたくさんの人に来ていただき、升さん独自の陶芸世界を味わっていただきたいと思います。