写真展のプリント(1)
9/18日から始まる多摩美大美術館でおこなわれる作品展のためのプリントが、先週、やっと終わった。
今回、「劇顔」の写真と、新たに「FACES」のモノクロ写真を展示します。
今の時代は、自分で写真をプリントしようとしたら、ある程度の覚悟が必要です。
どんな覚悟かというと、ちょっと油断してると必要なものでもいつの間にか無くなっているから、油断するな、ってことです。
いや、無くなっているならそれなりの対応も考えられるけど、同じ名前でありながら、中味が全然違ってるなんて普通に起こってしまうのです。
フランスの印画紙「ベルゲール」のことです。
僕は「ベルゲール」の調子が好きで、このところずっと愛用していました。
一昨年、パリのギャラリー「T.A.F」で催した「コスプレ、女装趣味」の人たちを撮った作品の写真展に使った印画紙も「ベルゲール」でした。
黒の色味や、しまり方が絶妙だったからです。しっかり黒くしまってもつぶれないからです。
暗室の中で、現像液から取り上げ、赤いセーフティランプに浮かび上がった映像を見て、「これこそモノクロ写真だあ」と思ったことも度々です。
その「ベルゲール」が、いつの間にかすっかり変わっていたのです。
名前はそのまま「ベルゲール」でも、現在手に入る「ベルゲール」は、以前の調子とは似ても似つかないしろものです。
変ったのはパッケージだけではありません。
恋人とデートして、ちょっとよそ見してるあいだに、違う女の子の手を握ってたようなもんです。
顔も性格もすべて変わってしまいました。
また最初から出直しです。
これをネガティブに受け取るか、ポジティブに考えるかでこの先の行動が全然違ってきます。
僕は、これはいい機会だから、この際、違う印画紙を探してみようと考えたのです。
それに、紙を変えるのなら、ついでと言っちゃあなんですけど、現像液も変えてみたらどうかと思いました。
僕の年齢を考えると、この先あと何回写真展が出来るかわかりません。
本当にやりたいことだけをやっていこう。
そのためには、新しく見つけた印画紙にマッチした現像液を自分でつくるしかない。
単液の薬品を買って来てそれを調合し、今回の作品に合った現像液を作り、それからプリントする。
「これがモノクロ写真だ」と、自信もって言えるプリントを焼いてみたい。
そう考えたのが2ヶ月前の6月末頃でした。
その日から、ああでもない、こうでもないの日々がはじまったのです。