多摩美術大学最終講義(9)「身体」

大学での講義も「光」「顔」と続いて、第3クールに入ると「身体」の話になります。

まず、学生全員に立ってもらい、普段歩いてる普通のスピードで真っ直ぐ歩かせます。
次に同じ場所から再び歩いてもらいます。前回よりゆっくりと。
「何か感じることがありますか?」
学生は何を質問されてるかわかりませんからシーンとしています。
次に、前回よりもさらにゆっくり歩いてもらいます。
超スローモーションですね。
ここで再び質問
「何か感じたことがありますか?」
学生はまだキョトンとしています。
私が超スローモーションで歩く動作を全員の前でやってみせます。

① 肩幅の広さで両足を揃えて立ちます。重心は左右の真ん中に。
② 第一歩を右足から出すためには、何をしなければならないか?
学生に問いかけます。
ここで、勘のいい学生は、私が何を伝えようとしたかわかります。
③ 第一歩の右足を前に出すには、重心を左足に写してからでないと動くことは出来ません。
つまり、前に進むための第一歩を出す前に、自由になることが必要なのです。
当たり前だと思われるかもしれませんが、ただ歩くだけでもよくよく観察すると、思わぬ発見があります。実際に自分でやってみるとよくわかります。
動く前に自由である重要性を感じ取っていただきたい。

次に、二人一組になってもらいます。
それぞれのグループにアイマスクを一つずつ渡します。
二人のうちのどちらか一人が撮影者、他の一人は被写体になってもらいます。
三脚にカメラを設置し、二人の間に立て、被写体になった人はカメラの正面から外れてはいけません。
さて、ここで撮影者にアイマスクを装着してもらいます。
撮影者はまったく見えない状態です。

「今から撮影してください」

と伝えます。

学生はとまどって、いつ、どうやって撮るんですか!
と質問が出ます。
「考えなさい」
と答えます。
もし見えなかったら、写真が撮れないのでしょうか?
見えなければシャッターを切る機会がないのでしょうか?
そんなことはないと思います。
被写体は生きています。呼吸もしてるし、当然ながら表情もあります。
注意深く、意識を集中すれば、目が見えなくても被写体のかすかな動きを感じ取ることが出来ます。もし、感じ取ることが難しければ、言葉をかけてください。
面白いことを言えば反応で笑います。つまり、撮影者は被写体の反応を引き出す方法を考えなければなりません。

「撮影者は被写体の手を握ってごらんなさい」

手を握った状態で話しかけます。見えなくても、まるで見えているように、むしろ見えている以上に被写体の感情が、文字通り手に取るように感じられます。
相手が不快でなければ、膝を触っても、肩を掴んでも反応はそれぞれ違います。

撮影者がこう撮りたいと思う世界に、被写体を誘導することも可能です。

感覚を集中して想像力を働かせること。
見えないことでかえって気付くことがあるのです。
 

 

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