おいしいコーヒー(17)

口あたりを主に考えると、弱火をうまく使う必要があります。
全体を強火で仕上げると、飲む時の口あたりが強くなります。ただし、強火のいい面ももちろんあるわけで、飲み終わりの抜けがよくなるのです。
ですから、間接の場合は、強火と弱火の両方を使いこなしていかなければなりません。

僕は当初、カフェ厨房のガスコンロを使って焙煎していたので、強火に関しては問題なかったのですが、弱火が思ったようにいきませんでし

た。それは、焙煎器の形と関係していたのです。焙煎器のシリンダーを回転させるためのハンドルが、ガス台にぶつかってしまうため、焙煎器の高さを火元から8cm上げたのです。この火元から遠ざけたことが原因で柔らかな弱火を使うことが出来なかったのです。
弱火がシリンダー全体を包むようにして豆に熱を加えねば柔らかな口あたりは実現できません。
火元からの距離に気付くまで、だいぶ時間を使ってしまいました。


一般的に、コーヒーの焙煎には「ハゼ」が重要だと考えられています。
いくつかの解説書を読むと、初めの「ハゼ」は存分にさせなさい、とあるのが普通です。
僕の経験ではそうは思いません。
「1ハゼ」を存分にさせるには、ある程度の火力を必要としますが、そうすると味が単調になると同時に、強火では気品が失われます。
僕はコーヒーにも品格があると思っています。
おいしいのは言わずもがな、まずければ話になりませんが、ただおいしいだけでも駄目なのです。おいしいのは当たり前、嗜好品だからこその気品を楽しみたいのです。コーヒーの品格はひとえに「香り」にかかっています。出来れば、「飲む前」「口に含んでいる時」「飲み終わった後の残り香」の3種の「香りを」別の匂いに感じさせたい。

そのためには、「1ハゼ」を静かに、時間をかけて行わなければなりません。

豆の素材分子をゆっくり変化させるのです。
僕の理想は「1ハゼ」を無くしたいと思っています。
静かに「1ハゼ」の過程を過ぎていく時がうまくいったときです。
ただし、「2ハゼ」だけはどんな豆でも必要です。
たとえ「モカ」のように、粒が小さい豆であっても、「2ハゼ」をさせなければなりません。
「1ハゼ」「2ハゼ」のサウンドは、豆の種類によっても違うのです。
「モカ」のサウンドは線香花火のように、か細く弱々しい音がします。
例として「ブラジル」のサウンドとはまったく違います。

「ハゼ音」を確かめる時が、焙煎の楽しみのひとつでもあると同時に、いちばん緊張する時でもあります。

 

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