消滅した島影

たった今しがた、山梨ロケから戻ったところ。
最近は撮影の仕事が続いていて、PCの前に座る時間がとれません。それなのに、身辺ではいろいろな事が起きています。

先日(3/13日)、横浜のブリリアント・シアターで、「おわら 風の盆」を上映しました。デジタル一眼レフカメラの動画機能について、その最初の動機などを簡単なトークショー形式で話したのです。同時に「さくら」、「彼岸花」の映像も上映しました。120席以上ある会場が、整理券を出さなければならない程の人気で、結局、60人ぐらいの方が入場出来なかったと聞きました。大勢の方がデジタル動画に興味を持たれていることがわかります。

僕自身、動画,静止画、両方の作品を作っていたことが、カメラにとっても、システムにとっても幸いでした。スチールカメラで動画がこれほどきれいに撮れるという事実は、普段、実際に動画撮影に馴染んでいないと解らなかったはずです。
2年前の8月に撮影した「彼岸花」が、デジタル一眼レフカメラで撮った最初の動画映像でしたが、実は、事実はそうではなくて、その2日前に別の被写体で撮影していたのです。それは、大分県の臼杵湾海上から離れ小島を撮影したもので、モーターボートで接近していく途中にカメラを構えました。舳先から乱れ飛ぶ波しぶきを透かして、徐々に大きくなっていく島影を撮影したのです。ところが、なにぶん、初めて使ったカメラ、初めて使った機能でしたから、操作を誤って、撮影済みの映像を消してしまったのです。


デジタルカメラの最大の素晴らしい機能は、撮った映像を瞬時に消すことが出来ることだと思っています。フィルムではそうはいきません。撮った映像はいつまでも記憶の中にとどまっていて、完全に忘れる事が出来ないのです。ところが、デジタルの場合は、撮影したその場で、指先一つで消滅させる事が可能です。しかも、完璧にです。

僕は、写真表現で必要な事のひとつは、撮った映像を忘れる能力だと思っています。次の新しい現実に対応していくためには、忘れるスピードが肝心です。現実はものすごいスピードで変化していて、新しく生まれた変化に気づいて対処していくためには、過去を忘れる能力を身につけていなければなりません。たった今撮った写真をふり捨てて、眼前の事態に眼を凝らすのです。記憶力は年齢とともに衰えていますが、いくらなんでも、たった今撮影したものを忘れる事は出来ません。それが、デジタルになったら、簡単な操作で映像(記憶)を消すことが出来るようになりました。

僕は、デジタルカメラで一番好きな機能は消すことです。
だから撮ったらすぐにその場で、きらいな映像を消してしまいます。
しかし、人には勧められません。
先ほど話したように、必要な映像まで消してしまう危険性を孕んでいるからです。
僕にとっては、危険を冒してまでも消滅させる必要があるのです。

事実を申し上げれば、デジタル一眼レフカメラで撮影した最初の映像は消えてなくなった波しぶき越しの「島影」です。

ついでに報告しますと、「おわら 風の盆」の編集作業をドキュメントした「キヤノンスペシャルその先の光へ…十文字美信の新たなる映像世界への挑戦」が、BS朝日で、再、再放送されます。
3/20日の早朝04:25分からです。とんでもない時間ですね。
興味ある方は録画してご覧になってください。

 

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